4. 九条武子『無憂華』

龍谷大学 人間・科学・宗教 オープン・リサーチ・センター
第7期研究展示
「死を超えた願い-黄金の言葉-
-見ずや君 明日は散りなむ花だにも 命の限り ひと時を咲く-」


【黄金の言葉-先人の心に学ぶ- その4】
九条武子『無憂華』


「悪の内観」(『無憂華』)

九条武子

「善をよろこび悪をにくむは人情である。しかし悪を嫌って顧みなかったら、悪は永久に救われるときがないであろう。善はすすめるべきことである。しかし何人(なんぴと)も、みずからの善をほこってはならない。むしろ他の悪によって、みずからの悪に泣くところがなかったならば、みずからの内面が、つねに悪の炎に燃えていることも気づかずにいよう。みずからの悪をかえりみ得ないものは、ともすれば自我の小善を高ぶりがちである。御同朋の上よりすれば、善人も悪人も、ひとしく求道の親しい友である。私たちは善そのものの肯定よりも、悪そのものの肯定によって、しみじみとみずからの内面を、反省させられずにおられない。」

(『九条武子 歌集と無憂華』 170頁。野ばら社)



「慈眼のまえに」(『無憂華』)

「救いのめぐみにかくれて、つねに悪しきを重ねているのは悲しい。私たちはほとけの慈悲に馴れて、ほとけを弄んではならない。みずからの弱い貧しさをかえりみると同時に、めぐまれた救いの喜びを味わう。弱きものこそ強くありたい。

あわれわれ生々世々の悪をしらず慈眼のまえになにを甘ゆる」

(『九条武子 歌集と無憂華』 186頁。野ばら社)



「幼児のこころ」(『無憂華』)

「幼児が母のふところに抱かれて、乳房をふくんでいるときは、すこしの恐怖も感じない。すべてを託しきって、何の不安も感じないほど、遍満している母性愛の尊きめぐみに、跪ひざまずかずにはおられない。

いだかれてありとも知らず おろかにも われ反抗す 大いなるみ手に

しかも多くの人々は、何ゆえにみずから悩み、みずから悲しむのであろう。救いのかがやかしい光のなかに、われら小さきものもまた、幼児の素純な心をもって、安らかに生きたい。大いなる慈悲のみ手のまま、ひたすらに久遠の命を育はぐくみたい。-大いなるめぐみのなかに、すべてを託し得るのは、美しき、信の世界である。」

(『九条武子 歌集と無憂華』 160-161頁。野ばら社)



「罪のなげき」(『無憂華』)

「道をもとむる人のなかに、ともすれば人生を罪深いものとして、これを否定しようとするものがある。
しかしながら否定し得ない現実の前には、何人も心おどろき慄かざるを得ないのである。救済のひかりは、悩めるもののためにかがやいている。ひかりは呪われた罪をこそ照らしてくれる。悩みのあるところ、ひかりはつねに、悩めるものと共にあるのである。
光に照らし出されたよろこびを味わうものは、また罪のなげきを味わうものであろう。否定し得ない罪をみつむるものこそ、真実に救いのよろこびを受け入れることが出来る。」

(『九条武子 歌集と無憂華』 200頁。野ばら社)



「無言の啓示」(『帰命』)

「光は闇をもとめて歩む。尊き啓示は高くかかげられていながらも、導きのままに久遠の光にふれ得ない生けるものすべては、みずから宿業の扉を固く閉ざして、我執の闇路にさまようていることが知られる。しかも歎きのあるところ、光はつねに慈愛の翼をひろげて、心いためるものを軟らかに抱きあげる。
迷妄の深き霧を隔て、愛しきわが生命を、永劫に光明と告別してはならない。」

(『九条武子 歌集と無憂華』 262頁。野ばら社)



あれを見よ 明日は散りなむ 花だにも 生命(いのち)の限り ひと時を咲く




九条武子(1887-1928 / 明治20-昭和3)

西本願寺・大谷光尊の次女として生まれる。12歳で男爵・九条良致に嫁ぐ。夫が正金銀行ロンドン支店勤務となったため渡英。1年半にして単独帰国。後、孤独を守った。佐々木信綱に師事。大正三美人の一人に数えられ、才色兼備の麗人として有名。仏教婦人会の創設や京都女子大学の創立に携わった。1923(大正12)年9月1日、関東大震災で築地の家を焼かれ、淀橋区下落合の借家に移る。関東大震災を縁として、悲惨な被災者や孤児の救援に努めるなど、さらに率先して社会事業に取り組んだ。1920(大正9)年、処女歌集『金鈴』を発行、1927(昭和2)年、歌集『無憂華』を出版した。1928(昭和3)年、41歳のとき、震災以来の過労から発病、1月17日青山の磯部病院に入院。1月27日敗血症と診断される。2月7日夜、合掌して念仏を称えつつ41歳の生涯を終える。亡くなった後に追悼歌集『白孔雀』が出版された。



第7期研究展示
「死を超えた願い-黄金の言葉-
-見ずや君 明日は散りなむ花だにも 命の限り ひと時を咲く-」


【黄金の言葉-先人の心に学ぶ】


【展示品】


【研究論文】