水俣からのメッセージ―豊かな時代を生きる君たちへ

リーフレット:第14期研究展示「自然と人間のつながり―水俣病に学ぶ」関連特別講演

龍谷大学 人間・科学・宗教 オープン・リサーチ・センター
第14期研究展示
「自然と人間のつながり―水俣病に学ぶ」関連
特別講演

「水俣からのメッセージ―豊かな時代を生きる君たちへ」

原田正純
(熊本学園大学社会福祉学部教授・水俣学研究センター長・医師)

2009年12月2日(水) 13:15~14:45
龍谷大学 深草学舎 顕真館


リーフレット

第14期研究展示「自然と人間のつながり―水俣病に学ぶ」詳細



【講師プロフィール】

原田正純(熊本学園大学社会福祉学部教授・水俣学研究センター長・医師)

1934年、鹿児島に生まれる。熊本大学に精神神経科医師として在職中、水俣病に出会う。以来、一貫して患者の立場に立って臨床的研究を行い、原因の社会的究明に努める。また、三池炭塵爆発によるCO中毒の臨床的研究や一連の公害事件、カネミ油症、土呂久ヒ素中毒などの疫学的・臨床的研究に取り組む。現在では、北米・北欧をはじめ東アジア、アフリカなど、世界の公害被害地調査、環境調査を行う一方、熊本学園大学の水俣学研究センターにおいて、水俣病が提起した諸問題を総合的に問い、新たな人間科学に発展させる「水俣学」を推進している。



【主著】

  • 『水俣学講義』, 第1集・第2集・第3集・第4集, 日本評論社, 2004-2008年。
  • 『水俣への回帰』, 日本評論社, 2007年。
  • 『豊かさと棄民たち』, 岩波新書, 2007年。
  • 『いのちの旅「水俣学」への軌跡』, 東京新聞出版局, 2002年。
  • 『金と水銀 私の水俣学ノート』, 講談社, 2002年。
  • 『水俣病と世界の水銀汚染』, 実教出版, 1995年。
  • 『胎児からのメッセージ』, 実教出版, 1996年。
  • 『水俣が映す世界』, 日本評論社, 1989年。
  • 『水俣病』, 岩波新書, 1972年。      他



【報告】

原田先生は、水俣学の第一人者である。原田先生は、講演の冒頭で、水俣病が公害問題の原点である理由を次のように話された。


原点と言われる理由は、環境汚染、特に食物連鎖によって、環境汚染によって中毒が起こったということなんです。…人類はそもそも火を使い始めた頃から一酸化炭素中毒というのは経験しているわけですね。ですから、人類の歴史から中毒ということはむしろつきあってきたというくらいに、様々の中毒とつきあってきたわけですけれども、環境汚染によって、しかも食物連鎖によって起こってきた中毒というのは水俣病がはじめてなんです。


チッソ工場から大量に流出したアセトアルデヒドは、海水をとおして魚の体内に入り、さらにその魚を食べた人間をふくむ動物に中毒を巻き起こした。この「連鎖」が、水俣病が公害問題といわれるゆえんである。さらに、この公害が深刻なのは、直接魚を食べることのなかった人間にも影響がみられたことである。つまり、当時「胎盤は毒物をとおさない」といわれた医学の常識を覆し、母体の胎盤をとおって二次被害がみられたことである。


原田先生は、医学生のころから水俣病の診断、調査をとおして水俣病とは何かを考えてきた。しかし、これまでの水俣病との道のりは平坦なものではなかった。漁業に従事する水俣病の人には、水俣病のことが新聞記事になると魚が売れなくなることを気に掛け、診断調査を拒否する人がいた。また、「どうせ治らないから来なくていい」と診察を拒否されたこともあったという。


さらに医学の知見からすると、水俣病とは、有機水銀中毒、あるいは工場廃水の中にふくまれた有機水銀が魚介類に蓄積され、それを食べた人に起こった有機水銀中毒という説明で十分理解される。しかし、原田先生は、はたしてそのような「理解」だけでよいのか、あるいは「それだけでは足りない」のではないかと疑問にもったという。医学的にはそうした「理解」で満点かもしれないが、水俣病とはそのように単純化できるものはなく、「治らない病気を前にしたときの医学がどのようにこの問題にかかわれるか」という、従来の専門領域を超えた視野が必要性になってくるのである。そのため、現代の科学技術をしても解決不可能である実状に原田先生は、「水俣病は解決していない」という立場に立って、歩み続けているのである。


「水俣病は解決していない」。このことは現代に生きる我々にとっても他人事ではない。講演のなかで原田先生はすさまじい状況を「見てしまった責任」という言葉を口にされた。グローバル化する世界において、われわれの「見てしまった責任」「知ってしまった責任」がどれだけ自覚的であるかが問われている。


(PD 本多真)



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