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年次報告書・2012年度

「死生観と超越ー仏教と諸科学の学際的研究」2011年度報告書

挨  拶
             龍谷大学 人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター長 鍋島 直樹
 

 人は思いもかけない大災害や死別に突然遭遇し、悲しみに暮れる時もないほど、その日を生きていくことに困窮することがある。しかし、人生の危機に直面して、はじめて本当に大切なものを求める。絶望の闇の中でこそ希望の光を探す。生死を超えるとは、いかなることであろうか。
 人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センターの『死生観と超越─仏教と諸科学の学際的研究』は、死に直面する人々、絶望の淵にある人々がその苦悩をいかに乗り越えていったのかを学び、一人ひとりの尊厳を守り、未来へ希望の灯りをともすような方向を示すような研究となっていくことが求められる。
 2011年3月11日午後2時46分、観測史上初のマグニチュード9の東日本大震災が発生した。地球の自転がわずかに速くなり、一日が百万分の1.8秒短くなるほどの大地震だった。三陸海岸の津波の高さは10メートル以上、岩手県宮古市では陸をかけあがった津波の遡上高が40.1メートルに達した。警察庁によれば、2012年3月11日の時点において、死亡者15,854人、行方不明者3,155人である。東日本大震災から一周忌を経て、あらためて言葉にできないほどの無念さや悲しみがあふれてくる。お亡くなりになった一人ひとりにかけがえのない人生があったことが偲ばれる。この悲しみと悔しさを忘れず、悲しみから生まれる大切なことを私たちがそれぞれ受け継いでいくことができればと思う。
 大災害などの危機に際して重要なことは、災害を人々がいかに乗り越えてきたかという歴史の検証であり、困難のたびに人々を支えてきた日本の伝統文化を守ることである。そして、蓄積された地域社会の人々の交流を大事に育んでいくことである。また何よりも、現場に行って初めて見えてくる知見を尊重しあうことが必要である。そこに日本の学術の果たすべき責任がある。東日本大震災の際に、日本人が、礼節を保ち、暴動や略奪を起こさず、支えあって生き抜く姿に、世界中の人々が賛辞を送った。阪神淡路大震災の際にも、暴動がほとんどなく、悲しみをこらえて支えあう日本人の姿を、世界のメディアがニュースで報道した。その慈しみや絆はどこから生まれてくるのだろうか。文学作家の村上春樹氏は、2011年6月9日にスペインでカタルーニャ国際賞を授賞した際、記念スピーチのなかで、日本人の誰もがもっている無常観が、忍耐強さ、礼節さ、支えあいの心を生み出していると話した。日本人には、仏教の諸行無常の真理が示すように、遥かいにしえから受けつがれてきた無常の人生観がある。桜が咲いて散り、紅葉が赤く染まって散るのを見て、自らの人生をふりかえるように、世間のうつろいやすさ、命のはかなさを知っているから、つらい時に人々は支えあうことができるのであろう。
 本研究プロジェクトは、2年目を迎え、4つの研究班は、構想調書に記した課題と計画に沿ってプロジェクトを遂行した。特に、2年目に達成できたことは、第一に、2011年4月より、『仏教死生観デジタルアーカイブ研究閲覧装置』を新聞報道やパドマ研究展示『生死を超える物語』で一般公開するとともに、研究成果として『仏教死生観デジタルアーカイブ研究─生きる意味の省察』を出版することができたことである。第二には、2011年9月に龍谷大学で開催された日本印度学仏教学会をはじめ、日本や海外の学会において共同研究者が研究発表やパネルを行ったことである。第三には、ユニット1では、2010年度にハーバード大学世界宗教研究所で開催された国際シンポジウムのプロシーディングスを基に、さらに2011年度にワークショップを継続して開催し、2012年度に、アメリカの出版社からその成果を研究書として刊行することが決まったことである。本のタイトル、編者、出版社は、Book Title: Winds of Virtue: The Japanese Buddhist Thinker Shinran in Conversation with Heidegger and Levinas, Co-authors: Charles Hallisey (Harvard University; Unit 1 Co-researcher),Dennis Hirota (Ryukoku University; Unit 1 Leader),Thomas Sheehan(Stanford University; Unit 1 Co-researcher),New York University Press, 2012 である。第四には、ユニット2とユニット3において、若手研究者を含めたシンポジウムやワークショップがほぼ毎月開催されたことである。ユニット2のシンポジウム「死生観と超越の研究展望─宗教多元のなかで」(2011年6月16日)、ユニット3の国際シンポジウム「浄土教における死生観と超越」(2011年11月29日)では、日本の他大学の教授や、アメリカのRichard K. Payne教授(IBS, Dean, The Graduate Theological Union)を迎えて、伝統的な死生観と救済観の実際的意義を共有して考えることができた。第五には、ユニット4において、ビハーラ活動と浄土教の死生観に関する学術講演を毎月行い、その成果論文を集積して、研究叢書『生死を超える絆─親鸞思想とビハーラ活動』を出版する運びとなったことである。第六には、若手研究者であるPDならびにRAが、本研究プロジェクトにおいて研究発表を行い、パドマにおける研究展示を助けるとともに、大学の非常勤講師として、大学教育に携わることができた。第七には、東日本大震災に関わって、本センターの研究者ならびにセンター関連講義に集う大学院生がそれぞれ復興支援ボランティア活動に携わり、その活動報告を、本センター主催の公開講座やパドマでの研究展示『宮沢賢治の死生観─雨ニモマケズの心』において発表したことである。とりわけ、宮城県本吉郡南三陸町役場の佐藤仁町長、町民福祉課及川幸子係長、町職員のご協力、すがとよ酒店の菅原文子さんを初めとするご遺族の方々のご理解により、南三陸町や気仙沼市の真実を学ぶことができた。ご協力とご支援いただいた各方面の皆様に対し、深く御礼申し上げたい。
 南三陸町では、志津川地区に建てられた防災対策庁舎で、大地震の直後から、「津波が来ます。高台に避難してください」と町民に放送で呼びかけつづけた遠藤未希さん(24)や三浦毅さん(52)など町職員39名が、大地震から約40分後に襲った大津波で亡くなった。私自身は災害支援ボランティア活動に2011年4月8日から携わり、仲間やご家族を津波で亡くして悲しむ職員に出あった。2012年3月現在、ほぼ毎月被災地に赴いて、悲しみに寄り添う心のケアを継続している。当初のボランティア活動は宮城県名取市の元仙台空港ボウルや角田市の元角田女子高等学校の遺体安置所でのお勤め、避難所への物資支援、炊き出しなどであった。それらが縁となって、宮城県仙台市宮城野区や南三陸町、気仙沼市などで、現地の町職員と連携をとりながら、死亡者のご遺族への弔問と行方不明者のご家族へのお見舞いにうかがわせさせていただくようになった。特に、遠藤未希さん(24)のご両親をはじめ、お亡くなりになった南三陸町役場の職員のご遺族、行方不明者のご家族との心の交流をつづけている。ボランティアや心の交流を通して学んだことは、私たちが何かを与えることよりも、被災地の方々から大切な真心を受け取ることが多いということである。「津波で家族や家をなくしても、人の絆は流されない」、この言葉も被災地の人々から学んだことである。悲しみは決して消えることはない。私たちが東日本大震災で亡くなった方々に手を合わせて哀悼し、愛する家族や故郷を喪失した人々のことを決して忘れず、復興に取り組んでいく。それがこれからも願われることである。私自身が、現地に赴いて新しく学んだことは数多い。危機を乗り越える道は、絶望から離脱するところにあるのではない。絶望に向き合うところに、困難を超える道が見えてくる。あたかも悲しみからまことの絆が生まれるように。無常とは、命のはかなさとともに、支えあえば必ず復興することを教えている。無常の悲しみから人と人は支えあい、無常の変わりうる世界であるから、支えあえば必ず復興することができる。
 最後に、遠藤未希さんのご両親と交流を重ね、2012年3月3日に、南三陸町のご自宅でうかがった話を、皆様に伝えたいと思う。「娘の未希がとった行動を、天使の声などの美談にしてほしくない。未希は津波の恐ろしさを知っていたら逃げたにちがいない。未希が逃げていてほしかった。そんなに頑張らなくても生きていてほしかった。どうか津波の脅威を伝えてほしい。人間の驕りを捨て、自然への畏敬を忘れず、大地震や大津波の際には、誰もがすぐに避難することを教訓として伝えていってほしい」とご両親は語ってくださった。そして、未希のお父様、遠藤清喜さんはこう話してくださった。「悲しみは決して消えることはない。季節ごとに娘のことを思い出す。毎日、その日をなすべきことを果たしてなんとか生活しているだけである。それから、少しずつこう思うようになった。生き残っている者には、それぞれ必ずその役割がある。そう思うようになってきた」と。そのお父様の言葉に心動かされた。未希への愛情を胸に刻み、皆様から受けたご支援に感謝して精一杯生きていきたい。そういう気持であると察するところである。未希さんのご両親の言葉は、お二人がこれから進もうとする道を指し示しているとともに、聞いている私自身にもこれから生きる道として指し示してくださっているように強く感じた。それから未希さんのご両親は、お二人で「感謝」「未来に希望の灯りをかかげて」と書いた木製の置物を見せてくださった。それは心にぬくもりを与えてくれた。今後も私自身が、長い時間をかけながら、東日本大震災の悲しみと無念さからあふれてくる大切なものを、被災地の方々に聞き、未来の世代に伝えていきたいと思う。
 本書に、掲載されたすべての研究成果に対し、心から感謝の意を表したい。本書の研究成果を研究者と若手研究者が共有し、それぞれの教育研究に生かしていただければ幸いである。

 

2012年3月26日


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